社員(スタッフ)が退職するときは、健康保険や厚生年金、雇用保険、住民税など、退職にともなう社会保険や納税関連の資格喪失の手続きが発生します。
社員が退職の意思を示してから、法的には最短で2週間、通常の退職で約2~3ヶ月以内の退職になることがほとんどです。有給休暇取得なども考慮すると、退職手続きは時間との闘いになります。
この記事では、社員の退職手続きの経験がない、もしくは少ない会社の経営者や担当者のためのまとめ記事です。社員の退職にともなう必要な手続きや退職前後のスケジュールはもちろん、ハローワークや年金事務所などの公的関連ページや提出書類のダウンロードページへのリンクもまとめています。
こちらの記事をお気に入りに追加していただくことで、退職の手続きに必要な情報にアクセスすることができます。また、設計事務所の方向けに、退職にともなう建築士法上の手続きについてもあわせて紹介しています。
社員が退職するときに必要な手続きとは?
社員が退職する場合には、健康保険・厚生年金、雇用保険等の社会保険の手続きや、住民税の徴収に関する手続きが発生します。
これらの手続きは、社員の退職から5~10日以内に速やかに手続きを行う必要があり、退職前後に必要な手続きが集中します。
退職時に発生する社会保険・住民税の手続き
項目 | 窓口 | 必要な手続き | 期限 |
健康保険・厚生年金 | 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届の提出 | 退職日の翌日から5日以内 |
雇用保険 | ハローワーク | 雇用保険被保険者資格喪失届の提出 雇用保険被保険者離職証明書の提出 |
退職日の翌日から10日以内 |
住民税 | 市区町村 | 給与所得者異動届出書の提出 | 退職後、すみやかに |
建築士事務所固有の手続きとは?
設計事務所(建築士事務所)に係わる退職時に考慮する手続きをまとめました。設計事務所以外の方は、読み飛ばしていただいてかまいません。
項目 | 窓口 | 必要な手続き | 期限 |
建築士の退職 | 建築士事務所協会 | 建築士事務所登録事項変更届 他 | 退職日から3ヶ月以内 |
管理建築士の退職 | 建築士事務所協会 | 建築士事務所登録事項変更届 略歴書 他 |
退職日から14日以内 |
健康保険・厚生年金の退職時の手続き
健康保険・厚生年金は、退職日の翌日から5日以内に、被保険者資格喪失届の提出が必要になります。提出の窓口は年金事務所になります。
退職に際しては、社員やその家族に発行していた健康保険証を手続き書類に添えて返却する必要があります。退職者から健康保険証を返却してもらう必要がありますが、最終出社日が退職日と離れてしまう場合は、郵送で返却してもらうのが一般的です。
被保険者資格喪失届は、窓口に持参することも、郵送で提出することもできます。
健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届は簡易な手続きです。記入例もダウンロードできるので、はじめての手続きでも簡単に済ませることができるので安心してください。
会社側の手続き
健康保険・年金に関する会社側の手続きは、以下の通りです。
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届の記入・提出
- 年金手帳の社員への返却(社員から年金手帳を預かっている場合)
退職者側の手続き
健康保険・年金に関する退職者側の手続きは、以下の通りです。健康保険証の返却が被保険者資格喪失届の提出時に必要となりますので、退職後速やかに返却しましょう。健康保険証の有効期限は退職日の翌日まで有効です。
- 会社に対して健康保険証の返却(退職日の翌日まで)
健康保険・厚生年金の退職手続きに関する関連情報
健康保険・年金関連の手続きや、被保険者資格喪失届のフォーマットや記入例のダウンロードは、日本年金機構のホームページにまとめられています。リンク先をクリックいただけると関連情報を入手することができます。
雇用保険(労働保険)の退職時の手続き
雇用保険の手続きは、退職日の翌日から10日以内に資格喪失届、離職証明書の提出が必要となります。提出の窓口はハローワークになります。
退職手続きのなかで、最も煩雑な手続きです。離職証明書はハローワークでの失業給付金に係わるため、記入項目が多く、退職者にも記入してもらう項目があります。また、退職届など退職理由を確認するための書類や、賃金台帳や出勤簿なども提出時に確認を求められる可能性があります。
さらに離職証明書は複写式の指定の様式となるため、ハローワークの窓口から入手する必要があります。郵送で取り寄せることも可能ですが、窓口から入手するのが一般的なようです。
離職証明書や資格喪失届の提出は、ハローワークの窓口にて提出することをお勧めします。提出時に訂正事項が発生したり、簡単なヒアリングを受けることがあるためです。退職者との雇用契約や給与の状況を把握している人間が、社印を持って窓口に赴くのがよいでしょう。
会社側の手続き
離職証明書や資格喪失届に関する会社側の手続きは、以下の通りです。離職証明書の提出時に、賃金台帳・労働者名簿・出勤簿、退職届の写しなどの提示・提出を求められることがあります。
- 資格喪失届(様式第4号)の記入・提出
- 離職証明書(三枚複写形式)の記入・提出
- 賃金台帳(離職証明書に記載した賃金分が確認できるもの)
- 出勤簿(欠勤などで給与が変動している場合)
- 離職理由の確認できる資料(自己都合退職の場合)
退職理由を証明する書類[退職理由が記載された退職届など]、労働者名簿 - 離職証明書・資格喪失後の提出後に、退職者保管分の書類(被保険者離職票-1,2)を退職者に郵送
退職者側の手続き
離職証明書や資格喪失届に関する退職者側の手続きは、以下の通りです。雇用保険の手続き書類は、退職者側も記入する項目があります。
- 退職前に離職証明書に退職理由に関する具体的事情記載欄の記入と記名・押印
雇用保険の退職手続きに関する関連情報
雇用保険の手続きに関する情報は、厚生労働省やハローワークの事業者向けページにまとめ荒れています。そのなかでも、離職証明書の手続きは複雑なため、雇用保険被保険者離職証明書についての注意をよく読んでおきましょう。不明な点は、管轄のハローワークに相談しておくことをお勧めします。
住民税の退職時の手続き
住民税の徴収に関する手続きは、退職後速やかに給与所得者異動届出書の提出が必要となります。提出の窓口は市区町村の課税課などになります。
住民税の手続きは、社員の退職日により処理方法が異なります。下記の表を参考に徴収方法を決めましょう。1月1日から5月31日が退職日となる場合対応が決まっているのですが、6月1日~12月31日が退職日になる場合は、普通徴収にするのか、一括徴収にするのか退職者への確認が必要となりますので、注意しましょう。
給与所得者異動届出書は、記入例も用意されており、比較的簡単な手続きです。提出も郵送で完結できますので、速やかに対応してしまいましょう。
退職日と住民税の徴収方法
退職日 | 徴収方法 | 概要 |
1月1日~4月30日 | 一括徴収 | 最後の給与から残額分を一括で徴収する |
5月1日~5月31日 | 普通徴収 | 住民税支払いの最終月のため、通常通り徴収 |
6月1日〜12月31日 | 選択可 | 退職者から希望があった場合、一括徴収も可 |
住民税の退職手続きに関する関連情報
住民税の手続きは、市区町村によって異なります。ここでは東京都江東区を例として紹介していますが、「自治体名 給与所得者異動届出書」などで検索すると、各自治体の手続き案内ページにたどりつくことができます。
社員・スタッフが退職する前後のスケジュールとは?
退職の申し出があってから、退職手続きが完了するまでのスケジュールをまとめました。転職を理由に退職を申し出た場合は、申し出から2~3ヶ月以内の退職が一般的です。
- ステップ1スタッフからの退職の申し出を受ける
退職手続きは、スタッフから退職の申し出を受けた時から始まります。スタッフが転職を理由に退職する場合とそれ以外では、必要な手続きやスケジュールが大きく変わってきます。退職の意思が堅いのか、退職理由(転職かそれ以外か)、希望の退職日があるのかを聞いておきましょう。
確認事項のイメージ
- 退職の意思や理由の確認
- 転職が理由の場合は、希望退職日の確認
- ステップ2業務や引継ぎの状況や必要手続きの確認をする
スタッフが係わっている業務の内容を把握するとともに、業務への影響や引き継ぎの範囲、引き継ぎ相手などを決めましょう。会社からは、スタッフに対して退職前後に必要となる事務手続きの概要を知らせるのもこのタイミングがよいでしょう。
また、退職日により住民税の徴収方法が変わることや、次の職場が決まっておらず失業保険を受給したい場合には離職証明書が必要となるので確認しておきましょう。
退職するスタッフに代わる人員が必要な状況であるならば、外注先の声掛けや採用活動も並行して開始するのがよいでしょう。
確認事項のイメージ
- 退職日の目標の設定
- 引き継ぎスケジュールの作成
- 有給休暇の残日数と有給消化のタイミングの確認
- 社会保険・住民税関連の手続きの案内
- スタッフ退職後を見据えた採用活動の開始
- ステップ3退職日や最終出社日の確定
引き継ぎ状況や有給日数などを踏まえて、退職日や最終出社日を確定しましょう。設計業務のようにクライアントがいる業務の場合は、顧客への挨拶の日取りなども定めておくとよいでしょう。
退職日が決まったら、退職日と退職理由を記載した退職届を会社宛に提出してもらいましょう。書面上の退職理由は、自己都合退職の場合は「一身上の都合による」などが一般的です。
社内やクライアントへのスタッフ退職の周知や、送別会等の日取りも決めておくとよいでしょう。
確認事項や提出書類のイメージ
- 退職日と最終出勤日の確定
- 退職日と退職理由を明記した退職届の提出
- 社内への退職の周知や送別会等の日取りの決定
- ステップ4退職前の手続き
業務関連の引き継ぎと並行し、社会保険などの退職手続きを進めましょう。最終出社日までに貸与物の返却、私物の回収、離職証明書の労働者記入欄の記入などを済ませてもらいましょう。
確認事項や提出書類のイメージ
- 離職証明書の労働者記入欄の記入、記名・押印
- 会社に置いてある私物の回収
- 貸与物の返却(PC、社用携帯、名刺など)
- 年金手帳の返却
- ステップ5退職直後の手続き
スタッフ退職の翌日から、社会保険関連の手続きの提出がはじまります。スタッフは、健康保険証の返却を速やかに行う必要があります。
会社側はハローワークから受領した離職票をスタッフに送付します。また、源泉徴収票や最終月の給与明細の発行も忘れずに行いましょう。
確認事項や提出書類のイメージ
- スタッフから会社へ、健康保険証の返却
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届の提出
- 住民税の給与所得者異動届出書の提出
- 雇用保険の資格喪失届、離職証明書の提出
- ハローワークから受領した、離職票1,2を送付
- 源泉徴収票や最終月の給与明細の発行
退職手続きに際して注意すべきポイントとは
スタッフの退職手続きに際して、注意すべきポイントを紹介します。
ポイント1:退職の合意を取り交わしておこう
退職に関する合意を取り交わしておきましょう。退職願・退職届・退職合意書など、名目はどのようなものでもかまいません。
離職証明書の提出時に退職理由を確認するため、退職届等写しの提出を求められることがあります。
ポイント2:給与計算を間違えないようにしよう
社会保険や住民税を一括徴収する場合や、健康保険・年金は〆日によっては徴収金額が異なります。
たとえば、末日退社の場合、健康保険・厚生年金の有効期限は退職日の翌日(翌月1日)となるため、翌月分の健康保険料(合計2か月分)も徴収する必要があります。
また、退職日と給与〆日が異なる場合、日割りで給与を計算する必要が出てきます。給与計算ソフトもイレギュラーな計算に対応していないケースもあるため、給与計算を間違えないよう注意しましょう。
ポイント3:労働法で定められた書類を確認しておこう
本来は普段から整備しておくべきものですが、労働法で規定された法定三帳簿をきちんと整備しておきましょう。ハローワークでの退職手続きで、出勤簿・賃金台帳・労働者名簿などを確認されることもあります。
さらに、2019年4月からは、労働法の改正により中小企業でも客観的な労働時間の記録を残しておくことが義務づけされました。こちらは退職の時点ではどうしようもない問題ではありますが、まだ記録をしていない会社は、今後はクラウド勤怠ツールなどで記録を残しておきましょう。
最後に退職関連の書類手続きでマイナンバーを記載することになりますので、きちんとマイナンバーを確認・保管しましょう。中小企業では、クラウドサービスの利用が安価で安全な方法と言えるでしょう。
項目 | 概要 |
出勤簿 | 労働法が定める法定三帳簿の1つ。人事労務freeeなどの勤怠管理ソフトで作成可能。ハローワークでの手続き時に確認を求められることあり。 |
賃金台帳 | 労働法が定める法定三帳簿の1つ。人事労務freeeなどの勤怠管理ソフトで作成可能。ハローワークでの手続き時に確認を求められることあり。 |
労働者名簿 | 労働法が定める法定三帳簿の1つ。人事労務freeeなどの勤怠管理ソフトで作成可能。ハローワークでの手続き時に確認を求められることあり。 |
客観的な打刻の記録 | タイムカードや勤怠ソフトなどによる打刻の記録(2019年4月から義務化) |
マイナンバーの把握 | マイナンバーの保管(クラウドの保管機能あり) 退職時の手続きにも、マイナンバーの記入が必要 |
ポイント4:所属建築士の変更手続きを忘れずに
さらに設計事務所の場合は、建築士資格保有者の退職にともない、建築士法で定めれた建築士事務所登録の変更届の提出が必要となります。
所属建築士(管理建築士でない建築士)が退職した場合
退職する社員が管理建築士ではない建築士の場合、退職日から3ヶ月以内に変更届を提出しましょう。
管理建築士が退職した場合
管理建築士であるスタッフが退職した場合、代わりの管理建築士が立てられない場合、建築士事務所を廃業する必要が出てしまいます。管理建築士が退職する前に代わりの管理建築士を任命し、管理建築士交代後14日以内に変更届を提出しましょう。
関連情報
建築士事務所協会のホームページに建築士事務所登録や変更手続きに関する手引きや様式集・記入例が掲載されています。管理建築士の変更や所属建築士の変更など、社員の退職による変更手続きについても記載されていますので、必要となる書類や記載内容を確認しておきましょう。
退職に必要な手続きを理解して、円満な退職・卒業を目指そう
小さい会社にとっては、スタッフの退職は非常にインパクトの大きい出来事です。他方、スタッフも小さい会社だからこそ、退職を切り出すのに勇気がいることだと思います。煩雑な手続きを理解したうえで遅滞なく処理し、温かく卒業できるよう送り出してあげましょう。
- 退職手続きの主要な手続きは、健康保険・年金、雇用保険、住民税の3つ
- 離職証明書の手続きは煩雑なので、早めに準備を開始しましょう
- 退職理由と退職日は、退職届などの書面として提出してもらいましょう
- 最終月の給与計算は、いつもと変わる可能性が高いので計算ミスに注意しましょう
この記事は、会社とスタッフとで共有して確認することを想定し、退職関連の手続き情報をまとめた記事です。会社・スタッフ双方で共有し、確認しながらタスクを進めていってください。
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