2-2 建築家の独立前のキャリアとは?独立事例、経歴、実務経験年数を紹介

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独立して建築家になるためには、少なくとも5年程度の実務経験が必要とされています。実際に独立している建築家は、独立前の職場でどのような経験を積んでおり、実務経験年数はどれくらいなのでしょうか?

この記事では、実際の建築家のキャリアの事例を、アトリエ事務所、組織設計事務所、ゼネコン設計部、ハウスメーカーなどの出身別に紹介しています。さらに、構造家・構造設計事務所、転職により複数の設計事務所を経験している建築家、共同創業(共同主宰)を経験している建築家など、さまざまな独立建築家のモデル・キャリアを紹介しています。

独立前に働く設計事務所(アトリエ・組織設計・ゼネコン設計部・ハウスメーカーなど)で得られる経験やキャリア、それぞれのメリット・デメリットについては、2-1 設計事務所独立までのキャリアとは?アトリエ・組織・ゼネコン、どこで働く? をご覧ください。

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建築家の独立前のキャリアとは?

建築家・設計事務所として独立するためには、一級建築士の登録を行うために必要な2年間、管理建築士になるために必要な3年間、合計5年間の実務経験が必要となります。

設計事務所を開設するために実務経験が必須になったのは、2008年の建築士法の改正によるものです。管理建築士制度が厳格され、3年間の実務経験と管理建築士講習の受講が義務づけられました。

2008年以前は、大学院や博士課程を経て独立することもでき、著名な建築家の方々のなかには実務経験がないまま独立した方もいます。独立までの働き方について、年輩の建築家は現在の建築士制度とは異なる状況で独立しているため、ロールモデルにできないという状況にあります。

こうした状況を踏まえ、この記事では2008年以降に独立した建築家を中心に、これから独立する方のモデルとなりうるキャリアを実例を交えて紹介します。

建築家の独立前のキャリアを実例を交えて紹介

実際に独立している建築家の独立前のキャリアを紹介します。2008年以前の実務経験がないまま独立した事例を除き、独立した建築家がどのようなキャリアや実務経験を積んで独立しているのかを、各社のHPやプロフィールページでの記載内容を元に紹介します。

アトリエ事務所、組織設計事務所、ゼネコン設計部、ハウスメーカー、さらに構造設計事務所や建築出身で設計事務所以外で独立している方を順番に紹介しています。

アトリエ事務所出身の建築家・設計事務所とは?

アトリエ出身の建築家の数は多く、現在においても独立の王道のキャリアと言えます。アトリエ事務所出身の建築家は独立の事例も多いため、2008年以降に独立している建築家に絞って紹介しています。

独立までの経験期間が比較的短く、30代前半など早い段階から独立しているケースが多いのも特徴です。独立後に取り組む用途も、独立前に所属していたアトリエ事務所の用途や規模に近いものになる傾向があるようです。

アトリエ事務所出身の渡邉 明弘さんは、4年半つとめた設計事務所を退職しました。|再生建築の全てを解説するブログ にて、自身のアトリエ事務所での経験をブログにまとめられています。

代表者氏名事務所名独立年
実務年数
業態代表のキャリア
能作 淳平ノウサクジュンペイアーキテクツ2010年
実務約4年
住宅・店舗・
工場・リノベ
など
長谷川豪
建築設計
事務所
中川 エリカ中川エリカ建築設計事務所2014年
実務約7年
オフィス・
住宅など
オンデザイン
パートナーズ
藤原 徹平フジワラテッペイアーキテクツラボ2009年
実務約8年
住宅、店舗、
オフィスなど
隈研吾
建築都市
設計事務所
御手洗 龍御手洗龍建築設計事務所2013年
実務約9年
住宅、店舗
など
伊東豊雄
建築設計
事務所
渡邉 明弘渡邉明弘建築設計事務所2015年
実務約 4年
再生建築、
ホテル・
オフィス
など
青木茂
建築工房

組織設計事務所出身の建築家・設計事務所とは?

組織設計事務所出身の建築家は、アトリエ事務所出身者に次いで独立の事例が多いです。古くは隈研吾さん(日本設計・戸田建設出身)や千葉学さん(日本設計出身)などが有名ですが、近年では若手建築家のなかにも組織設計事務所出身者は増えてきています。

アトリエ事務所出身者に比べて、独立までの実務経験が3~5年程度長い傾向にあります。独立のスタートが遅くなる分、経験やネットワークを活かして、比較的独立初期から大型のプロジェクトに係わっている傾向が見られました。

代表名事務所名独立年
実務年数
業態代表のキャリア
高野 洋平MARU。architecture2010年
実務約10年
公共から住宅まで
幅広い
佐藤総合計画
高野 俊吾高野俊吾建築設計事務所2013年
実務約13年
住宅、オフィス、
医療福祉系が多い
松田平田設計
小堀 哲夫小堀哲夫建築設計事務所2008年
実務約11 年
オフィスや
学校など
久米設計
山﨑 健太郎山﨑健太郎
デザインワークショップ
2008年
実務約6年
保育園・病院・
店舗など幅広い
入江三宅
設計事務所
白井 純平SHIRAI ARCHITECTS2017年
実務約7年
住宅・ホテル・
店舗・海外など
日本設計
太田 翔OSTR2019年
実務約6年
住宅や店舗など
レンタルスペース
も企画・運営
昭和設計

ゼネコン出身の建築家・設計事務所とは?

ゼネコンの設計部の出身で、独立した建築家についてリサーチをした結果、ゼネコン出身の建築家の多くが竹中工務店の設計部出身でした。組織設計事務所同様、独立までの経験年数は長めです。

宮下信顕さんは、コンペキラーとしてゼネコン在籍時から有名で、独立後も大型プロジェクトの企画やデザインマネジメントに係わられています。大手出身で独立後も規模の大きいプロジェクトにも係われる、ロールモデルとして参考にしたいキャリアです。

代表名事務所名独立年
実務年数
業態代表のキャリア
宮下 信顕エムアールスタジオ2017年
実務約20年
国内外の
大型プロジェクト
竹中工務店
齋藤 隆太郎DOG2014年
実務約6年
住宅・クリニック
など
竹中工務店
森吉 直剛森吉直剛アトリエ2001年
実務約4年+α
住宅中心大成建設
山縣 洋山縣洋建築設計事務所2002年
実務約14年
住宅中心竹中工務店
金田 博道金田博道建築研究所2010年
実務約11年+α
住宅中心熊谷組
ハウスメーカー
豊田 悟豊田空間デザイン室1991年
実務約18年
住宅中心竹中工務店
五十嵐 理人IGArchitects2019年
実務約11年
住宅・店舗
・オフィスなど
清水建設
→SUPPOSE
DESIGN OFFICE

ハウスメーカー出身の建築家・設計事務所とは?

ハウスメーカー出身の建築家は少ないですが、独立した事例は複数確認することができます。

独立されている方のなかには建築家を名乗らない方も多く、地域・地方に密着しているタイプの住宅設計事務所は、掲載している方々以外の事例も一定数確認することができました。

代表名事務所名独立年・実務年数業態代表のキャリア
藤井 将Fit建築設計事務所2008年・実務約5年住宅系積水ハウス
黒崎 敏APOLLO一級建築士事務所2000年・実務約6年住宅系積水ハウス
吉田 立リツデザイン2001年・実務約6年住宅系住宅会社
秋田設計

構造家・構造設計事務所の独立前のキャリアとは?

構造家・構造設計事務所の独立前のキャリアを紹介します。構造設計事務所は、HPを開設していなかったり、建築家のように詳細なプロフィールを掲載していないケースも多いです。

いわゆる構造家タイプの構造事務所を開設される方や、ITやプログラミングなどの技術面を活かした会社を設立されている方など、近年では複数の類型を確認することができます。

代表名事務所名独立年・実務年数代表のキャリア
満田 衛資満田衛資構造計画研究所2006年・実務約7年佐々木睦朗構造計画研究所
坂田 涼太郎坂田涼太郎構造設計事務所2012年・実務約13年金箱構造設計事務所
木下 洋介木下洋介構造計画2011年・実務約8年金箱構造設計事務所
市村 隆行親交設計2011年・実務約11年和田建築技術研究所
大沼 耕平アルキテック2016年・実務約16年構造工学研究所
伊藤 啓富i-木構2012年・実務約17年建設会社やハウスメーカーなど

ユニークなキャリアで独立している建築出身者とは?

建築学科や設計事務所の経験を活かして、建築周辺の領域で活躍する方もいます。

エイトブランディングデザインの西澤明洋さんは、建築学科出身です。ブランディングデザインという業態で起業されているだけでなく、書籍「アイデアを実現させる建築的思考術」のように建築出身の方で異業種で活躍される方をまとめた書籍を出版されています。

代表名事務所名独立年業態代表のキャリア
西澤 明洋エイトブランディング
デザイン
2006年ブランディング
デザイナー
東芝
ナカムラ ケンタシゴトヒト
(日本仕事百貨)
2008年日本仕事百貨を
運営
不動産会社
→商業施設などの
企画運営
中村 真広ツクルバ2011年空間デザイン、
不動産メディア
運営
コスモスイニシア
溝端 友輔NOD2019年建築ディレクター商業施設の
制作会社
野口 理沙子イスナデザイン2018年ケンチク
イラストレーター
石本建築事務所
→永山祐子建築設計
山根 脩平TECTURE2019年空間デザイン
検索サービス
【】TECTURE代表
隈研吾
建築都市設計事務所
→LINE株式会社

独立前のキャリアで足りない部分は、どのように補うか?

独立するために完璧なキャリアというものはなく、例えばアトリエ事務所と組織設計事務所では、得られる経験は大きく異なります。

アトリエか組織かという二元論ではなく、転職や協働創業(共同主宰)を通じて、お互いの良いところを掛け合わせて独立につなげるという方法もあります。

転職を通じて複数の会社を経験し、キャリアの不足を補う

組織とアトリエの良いところを押さえた経験するためには、転職を通じてキャリアを形成するという選択肢もあります。独立するまでに必要な経験である5~6年のなかでも、転職を経験する期間は十分にあります。

転職という場をうまく活用できれば、異なるカルチャーやスキル・技術を経験することができ、総合的なキャリアや経験を得ることができるでしょう。

代表名事務所名独立年
実務年数
業態代表のキャリア
廣岡 周平PERSIMMON HILLS2016年
実務約5年
公共・住宅・
オフィスなど
幅広く活躍
SUEP
→大成建設
五十嵐 理人IGArchitects2019年
実務約11年
住宅・店舗・
オフィスなど
清水建設
→SUPPOSE
DESIGN OFFICE
中倉 康介中倉康介建築設計事務所2020年
実務約5年
オフィス・
店舗が
多い
三菱地所設計
→NAP
建築設計事務所
佐久間 悠建築再構企画2007年
実務約4年
用途変更など
適法化に活躍
古市徹雄
都市建築研究所
→TYアーキテクツ

複数人で独立することで、弱点を補完する

異なる経験をしたメンバーがペアとなって独立するパターンも見られます。組織設計出身者とアトリエ事務所出身者がパートナーとして設立した勝亦丸山建築計画など、参考になる事例が複数あります。
また、同じアトリエ事務所出身者同士で独立する場合でも、公共施設が強いアトリエ事務所と商業施設が強いアトリエ事務所など、異なる経験をしたメンバーが組むことで、活躍の幅を広げることができるでしょう。

代表メンバー事務所名独立年業態代表のキャリア
柿木 佑介

廣岡 周平
PERSIMMON HILLS2016年公共・オフィス・
住宅など
幅広く活躍
MOUNT FUJI
ARCHITECTS STUDIO

SUEP
→大成建設
高野 洋平

森田 祥子
MARU。architecture2010年公共・オフィス・
保育園など
幅広く活躍
佐藤総合計画

NASCA
勝亦 優祐

丸山 裕貴
勝亦丸山建築計画2015年住宅・店舗・
オフィスなど
シェアハウスも
企画・運営
日建設計

KUS
一級建築士事務所
村山 徹

加藤 亜矢子
ムトカ建築事務所2010年店舗・ギャラリー
・住宅等が多い
青木淳
建築計画事務所

山本理顕
設計工場
太田 翔

武井 良祐
OSTR2019年住宅や店舗など
レンタルスペースも
企画・運営
昭和設計

日本設計

建築士制度の変更による、独立までのキャリアを再考しよう

建築家として独立するためのキャリアは、2008年と2020年の建築士制度等の変更により、以前とは大きく変わりました。独立までのキャリアについては、2008年以前に独立した有名建築家ではなく、2008年以降に独立した建築家を参考にすると良いでしょう。

これから建築家として独立を考えてる方のキャリアのポイントは以下の通りです。

  • 独立して設計事務所を開業するためには、5年程度の実務経験が必要となる
  • アトリエ、組織設計、ゼネコンなど、どれを選んでも独立できるが特色は異なる
  • 独立前のキャリアとして、アトリエ事務所、次いで組織設計事務所が多い
  • それぞれのキャリアのメリット・デメリットを理解し、補完することもできる
  • アトリエと組織設計・ゼネコンなど、転職を通じてキャリア・経験を補完できる
  • 共同創業(共同主宰)で、互いのキャリアを補完することができる

建築家として独立するための準備や独立直後にやるべきことは、 2章 設計事務所の独立準備 の各記事にまとめています。ぜひ、ご活用ください。

設計事務所経営ナビでは、建築士の独立に必要な知識や、設計事務所の経営や会社運営に役立つ情報を提供しています。関連記事もあわせてご覧ください。

スペシャルサンクス

この記事は、twitterをきっかけに下記の方々のアドバイスを受けてまとめることができました。この場を借りて感謝いたします。

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文責は設計事務所経営ナビにありますので、記事の間違いや不整合を発見した場合は、設計事務所経営ナビまでご連絡ください。

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