1-1 管理建築士制度とは?必要な実務経験などの受講資格を確認

スポンサーリンク

独立して設計事務所(建築士事務所)を開設するためには、専任の管理建築士を置く必要があります。

管理建築士になるには、原則として建築士事務所に所属する建築士として3年以上の設計等の業務に従事した後、管理建築士講習の課程を修了することが必要と定められています。

この記事では、管理建築士制度の概要や実務要件、最短で管理建築士を取得し、建築士事務所を開設するためのプロセスも紹介しています。管理建築士講習の受講や合格率について知りたい方は、1-2 管理建築士講習の受講方法とは?合格率、開催日程・料金・業務経歴書証明書の記入方法を紹介 も併せてご覧ください。

スポンサーリンク

管理建築士制度とは?

管理建築士とは、建築士事務所の建物の設計、工事監理に関することなど「技術的な事項を統括する建築士」のことです。建築士事務所を開設・運営するためには、専任の管理建築士を置く必要があります。

建築士法では、建築事務所に専任の管理建築士を置くことを義務づけています。また、管理建築士は、建築士として3年以上の実務経験を経た後、管理建築士講習を受講した建築士でなけらばならないと定められています。

管理建築士制度は、2008年(平成20年)11月28日に改正された建築士法の規定により、管理建築士の要件が厳格化されました。現在の管理建築士制度として定められている、管理建築士になるための実務要件や、管理建築士講習の受講が義務づけられました。

管理建築士制度が現在のような制度に変更された背景には、2005年に起きた構造計算書偽造問題による建築士への社会的な信用の低下があります。

管理建築士は誰がなる?

独立して設計事務所(建築士事務所)を開設する場合、代表者が管理建築士を兼ねることがほとんどです。そのため、管理建築士は建築士として独立するために実質的に取得が必須の資格になっています。

ただし、管理建築士には専任規定という、兼業や副業が許されない規定がありますので、大学の教員を兼ねているような建築士は、管理建築士を別に任命する必要があります。

また、会社員でも管理建築士になるケースはあります。例えば、大手のゼネコンや設計事務所やハウスメーカーなどの大手企業では、本支店ごとに建築士事務所登録をしているため、それぞれの建築士事務所に管理建築士を任命しています。そのため、1つの会社に複数名の建築士事務所・管理建築士が所属しています。

さらに、建築設計業を主体としない会社であっても、保有建物の企画・設計・改修計画を行う不動産会社や、保育園などの施設を運営する会社にも、建築士事務所登録をしている会社があります。

独立して建築士事務所を開設する場合も、会社員として経験を積み指導的な立場になる場合も、いずれの立場においても管理建築士に就任する可能性があります。

管理建築士になるには?実務経験3年と管理建築士講習の受講が必要

管理建築士になるためには、建築士事務所に所属する建築士として3年以上の設計その他の国土交通省令で定める業務に従事した後、国土交通大臣の登録を受けた登録講習機関が行う管理建築士講習の課程を修了することが必要と定められています。

管理建築士講習受講に認められる実務要件とは

管理建築士講習を受講するために必要な実務経験は、建築士法施行規則第20条の5に定められています。以下のいずれかに該当するものとされています。

  • 建築物の設計に関する業務
  • 建築物の工事監理に関する業務
  • 建築工事契約に関する事務に関する業務
  • 建築工事の指導監督に関する業務
  • 建築物に関する調査又は鑑定に関する業務
  • 建築物の建築に関する法令又は条例の規定に基づく手続の代理に関する業務

法文からは、具体的な業務のどこまでが該当するのか判断するのは難しいですが、公益財団法人建築技術教育普及センターが実務要件の例を例示していますので、基礎的な理解には役立てることができると思います。

実務要件に関する関連情報

管理建築士講習受講のための実務要件は、日本建築技術センターや日本建築士会連合会のホームページに関連情報が掲載されています。

管理建築士取得のスケジュール。建築士取得から、事務所開設まで

管理建築士を取得して、建築士事務所を開設するためには、大きく4つのステップを踏む必要があります。

建築士取得のスケジュール
  • ステップ 1
    建築士免許の登録を完了する

    管理建築士になるための1つ目のステップは、建築士試験に合格し、指定の実務経験をみたした上で、建築士免許の登録を完了することです。

  • ステップ 2
    建築士として、実務経験を積む

    2つ目のステップは、建築士事務所にて3年以上の建築士に関連する実務経験を積むことです。

    実務経験は、建築士の種類を問わず3年を通算できます。たとえば、二級建築士免許を持っている状態で、3年の実務経験を積んでいる途中で、一級建築士試験に合格し、免許登録を行った場合は、一級建築士としての経験が3年に満たなくても、一級建築士事務所を開設することができます。

  • ステップ 3
    管理建築士講習を受講する

    3つ目のステップは、管理建築士講習を受講し、修了証をもらうことです。管理建築士講習自体は、決して難解なものではありません。各団体のHPによれば、2020年までの修了試験は、ほぼ参加された方全員が合格されている状況です。

    ⇒管理建築士講習の受講については、「1-2 管理建築士講習の受講方法とは?申込み先、開催日程・料金・必要書類を紹介」をご覧ください。

  • ステップ 4
    建築士事務所の開設届けを提出する

    4つ目のステップは、建築士事務所の登録を行うことです。

    管理建築士を行う管理建築士講習の修了証を受領したら、都道府県の建築士事務所協会にて建築士事務所登録の申請手続きを行うことで、設計事務所を開設することができます。

    ⇒建築士事務所の登録については、「1-4 建築士事務所登録とは?届出先とスケジュール(管理建築士講習や会社法人設立)や有効期間を紹介」をご覧ください。

最短で管理建築士を取得し、独立するためのスケジュールは?

建築士事務所をできる限り短期間で開設するためには、どのようなスケジュールが考えられるでしょうか。2020年の建築士試験制度の変更を踏まえて、重要なポイントを紹介します。

最短で管理建築士を取得し、独立するためのスケジュール
最短で管理建築士を取得し、独立するためのスケジュール

ポイント1:建築士試験の受験要件の変更

令和2年(2020年)の建築士試験から、建築士試験の受験要件が緩和され、これまで受験時に必要だった実務経験等が免許登録要件の読み替えられることになりました。

しかし、実務経験を満たしていなくても建築士試験を受験することはできますが、合格後に実務経験を満たしてからでないと建築士としての登録を行うことができません。

建築士免許を登録する前の建築士事務所での実務経験は、管理建築士講習の受講資格に必要な3年の実務経験に含めることはできませんので、注意しましょう。

ポイント2:管理建築士の実務要件は、建築士の種類を問わない

管理建築士の実務要件は、建築士の種類を問わず通算することができます。そのため、一級建築士事務所の開設を目指す場合でも、大学在学中に受験可能な二級建築士を保有している場合、社会人としての生活をスタートするタイミングから二級建築士としての実務経験を通算することができます。

3年の実務経験を積むうちに一級建築士試験に合格し、登録を完了したタイミングで管理建築士講習を受講することで、一級建築士事務所を開設することができるのです。

独立の計画を立てているものの、学歴・実務経験などの理由で、一級建築士の免許登録までに時間がかかるようなケースでは、先に二級建築士を合格・登録することで独立までの期間を短縮することもできます。

最短で管理建築士を取得し、一級建築士事務所を開設するには?

建築士・管理建築士・建築事務所の開設を済ませ、可能な限り早く設計事務所を開設するためには、どのようなスケジュールが考えられるでしょうか。2020年の建築士試験の改正を踏まえ、建築士試験の免許登録要件や管理建築士の実務要件を加味して、一級建築士事務所の開設プロセスを紹介します。

この記事では、建築系の大学や大学院を卒業・修了する場合を想定していますが、高専を卒業される場合や大学院でのインターン経験などを活用すると、もう少し短縮できる可能性もあります。

パターン1 大学卒業後に二級建築士に合格後、一級建築士に合格した場合(大学卒業から4年+α)

大学卒業後、初年度に建築士事務所の実務経験が積める会社で働きながら二級建築士に合格・登録し、管理建築士講習のための建築士としての3年間の実務経験期間中に一級建築士試験に合格・登録するケースです。
大学卒業後、二級建築士登録まで1年、管理建築士講習受講のための建築士としての実務経験に3年として計算しています。大学卒業後、独立までに必要な期間は4年+αになります。

大学卒業者が最短で管理建築士講習を受講し、独立するためのスケジュール
大学卒業者が最短で管理建築士講習を受講し、独立するためのスケジュール

パターン2 大学院在学中に一級建築士に合格した場合(大学卒業から7年+α)

大学院在学中に一級建築士試験に合格し、建築士事務所の実務経験を2年間積んだうえで一級建築士の免許を登録。管理建築士講習のための建築士としての3年間の実務経験を積むケースです。

大学卒業後、大学院在学に2年、一級建築士の免許登録に必要な実務経験に2年、建築士としての実務経験に3年として計算しています。大学卒業後、独立までに必要な期間は7年+αになります。

大学院修了者が最短で管理建築士講習を受講し、独立するためのスケジュール
大学院修了者が最短で管理建築士講習を受講し、独立するためのスケジュール

パターン3 大学院在学中に二級建築士に合格後、一級建築士に合格した場合(大学卒業から5年+α)

大学院在学中にニ級建築士試験に合格し、管理建築士講習のための建築士としての3年間の実務経験期間中に一級建築士試験に合格・登録するケースです。

大学卒業後、大学院在学に2年、建築士としての実務経験に3年として計算しています。大学卒業後、独立までに必要な期間は5年+αになります。

大学院修了者が大学院で二級建築士に合格し、最短で管理建築士講習を受講し、独立するためのスケジュール
大学院修了者が大学院で二級建築士に合格し、最短で管理建築士講習を受講し、独立するためのスケジュール

管理建築士制度を理解し、独立までの期間を正しく理解しよう

管理建築士制度は、2008年以降に現在の形になり、建築士試験制度も2020年に大きな変更を行われました。建築士を取り巻く実務経験や独立までの道のりに変更が生じました。

管理建築士や講習受講のためのポイントは、以下の通りです。

  • 独立して設計事務所を開業するためには、管理建築士を置く必要がある
  • 管理建築士になるためには、建築士としての3年間の実務経験が必要
  • 管理建築士は、独立だけでなく、会社員も任命される可能性がある
  • 建築士試験、管理建築士、それぞれに必要な実務経験を正しく理解する

設計事務所独立までには、建築士法上のさまざまな手続きが必要となります。独立して設計事務所を開設する準備期間を正しく理解した上で、計画的に資格取得を進めていきましょう。

設計事務所経営ナビでは、建築士の独立に必要な知識や、設計事務所の経営や会社運営に役立つ情報を提供しています。ぜひ、関連記事もあわせてご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました