法人(株式会社や合同会社など)が設計事務所を開設するためには、建築士事務所登録の申請が必要となります。会社設立直後に申請を行う場合は、法人登記やオフィスの確保などを済ませたうえで、登録申請書類を提出する必要があります。
この記事では、法人の建築士事務所登録に必要な書類の一覧や注意ポイントをまとめています。さらに法人設立や個人事業主から法人化した場合の手続きの注意ポイントもあわせて紹介しています。
建築士事務所登録の概要や手続きの流れについて知りたい方は、1-4 建築士事務所の登録とは?設計事務所開設までの流れや有効期間を紹介 を、個人事業主(フリーランス)の建築士事務所登録については、1-6 個人事業主の建築士事務所登録とは?必要書類、開業届から紹介を、あわせてご覧ください。
法人の建築士事務所登録の流れとは?
建築士事務所登録の申請手続きを紹介する前に、法人設立から、建築士事務所登録完了までの流れを確認しておきましょう。
下記の図は、管理建築士講習の受講・法人登記・オフィスの設置も含め、登録完了までの手続きの流れを紹介したものです。
提出の窓口は、都道府県の建築士事務所協会(福井県、香川県、福岡県を除く)で、審査期間の目安は1週間程度になります。書類に不備があると再提出になってしまいますので、手戻りを防ぐために必ず事前相談で確認してもらった上で提出しましょう。
建築士事務所登録までの流れ
手続きの流れの詳細については、1-4 建築士事務所の登録とは?設計事務所開設までの流れや有効期間を紹介 をあわせてご覧ください。
法人の建築士事務所登録の提出書類一覧
建築士事務所登録の申請書類のリストを東京都の建築士事務所協会が発行している「建築士事務所登録申請と変更等の手引き」を元に紹介します。必要書類を一覧で紹介した上で、注意が必要な資料については、リストの下部に補足しています。
申請書類リスト
提出書類 | 概要 |
①建築士事務所登録申請書(第一面) | 法人名の前後どちらかに〇級建築士事務所と入れる Ex ○○アーキテクツ一級建築士事務所 |
②所属築士名簿(第二面) | 管理建築士を筆頭に、所属建築士全員を記入 |
③役員名簿(第三面) | 登録上の代表者を筆頭に役員全員を記入 |
④業務概要書 | 直近5年間の主なものを記入。新規申請の場合は不要 |
⑤略歴書(登録申請者) | |
⑥略歴書(管理建築士) | 登録申請者が管理建築士を兼ねる場合は⑤で兼用 |
⑦誓約書 | |
⑧定款の写し | 定款事業目的に、「建築物の設計・工事監理」などの記入が必要 |
⑨履歴事項全部証明書 | 3ヶ月以内に取得した原本を提出する。法務局等で取得できる |
添付資料
提出書類 | 概要 |
⑩事務所の賃貸借契約の写し等 | 建築士事務所の所在地が⑨に記載されている場合は不要。登記上の所在地と事務所所在地が異なる場合については下記を参照する。 |
⑪決算期の確認資料 | 法人の決算期を確認するため、法人都道府県民税・法人事業税等領収証書写し又は納税証明書(写し)を提出 |
⑫管理建築士の住民票 | 3ヶ月以内に取得した個人番号記載なしの原本を提出 |
⑬管理建築士の建築士免許証の写し | |
⑭管理建築士の前職場の退職証明(退職後6ヶ月以内の場合) | 個人事業をしていた場合は、直前期の確定申告書(第一面及び第二面)の写しを提出 |
⑮管理建築士の専任証明 | 登録申請者が兼ねる場合は不要 |
⑯管理建築士講習修了証の写し |
⑩事務所の賃貸借契約書の写し等
オフィスを賃貸借契約で設置する場合は、契約主体が法人名となっていることを確認し、賃貸借契約書の写し(約款まで含む)を提出する必要があります。
シェアオフィスの場合、利用期間内は固定区画を維持でき、建築士法上の標識の掲示及び帳簿の保管等が実施できる状態であれば、登録できます。なお、郵便物だけを受け取るようなバーチャルオフィスの形態では登録ができません。
⑪決算期の確認資料
法人の決算期確認のため、直近事業年度の法人都道府県民税・法人事業税等領収証書写し又は直近事業年度の納税証明書(写し)を提出する必要があります。法人設立直後で、最初の決算期が到来していない法人は、法人設立届の写しを提出します。
⑭前職場の退職証明
退職したことを証明する書類は退職証明書以外に、雇用保険の資格喪失届の写し、離職票の写し、健康保険資格喪失届の写し、厚生年金の加入期間証明があります。
⑮専任証明
登録申請者が管理建築士を兼ねる場合は提出不要です。
管理建築士の専任(常勤)を証明するものとして、次の資料のいずれかを提出する必要があります。
(ア)健康保険被保険者証(事業者名と管理建築士の氏名が記載されているもの)の写し
(イ)雇用保険被保険者証(事業者名と管理建築士の氏名が記載されているもの)の写し
(ウ)住民税の特別徴収税額通知書(事業者あてのもの)の写し
(エ)その他常勤が確認できるもの
専任については、1-3 管理建築士の責任は?建築士法の法的責任・リスク・罰則・処分事例や専任違反を紹介を参照してください。
⑯管理建築士講習修了証の写し
管理建築士講習を修了後に発行される修了証の写しを添付します。管理建築士講習の修了証は、各団体のHPには受講後1ヶ月程度を目安に発行されると記載されていますので、余裕を持って受講しておきましょう。
管理建築士講習や修了証については、1-2 管理建築士講習の受講方法とは?合格率、開催日程・料金・業務経歴書証明書の記入方法を紹介 も参考にしてください。
法人の建築士事務所登録で注意すべきケースとは
法人の建築士事務所登録の手続きは複雑なものではありません。しかし、会社設立や個人事業主からの法人化と建築士事務所登録を同時に進めようとする場合は注意が必要です。手戻りを防ぐために手続きの手順を理解した上で進める必要があります。
ケース1:会社設立と同時に建築士事務所登録を行う場合
会社設立と同時に建築士事務所登録を行う場合、法人登記やオフィスの確保も必要になります。
オフィスを新たに借りる場合、法人名義での契約が必要となり、オフィスを探す期間も見込む必要があります。会社設立から建築士事務所登録までの期間に十分に余裕を見ておく必要があるでしょう。
また、独立初期では固定費を抑えるためにコワーキングスペースなども選択肢に入ってくることでしょう。ところが、建築士事務所登録では独立した区画であることが求められているため、コワーキングスペースの規約上、難しいこともあるので注意しましょう。
ケース2:個人事業主からの法人化を行う場合
個人事業主として既に建築士事務所を営んでいて法人化する場合、さらに手続きが複雑になります。
個人事業主としての建築士事務所の廃業届を提出するとともに、法人設立と法人としての建築士事務所登録が必要となります。オフィスを借りている場合は、法人名義での契約に切り替えるなどの手続きも必要となるので注意しましょう。
建築士事務所の廃業手続きについては、1-10 建築士事務所の廃業方法とは?個人事業主からの法人化でも必要 に手続きの概要を記入しています。あわせてご覧ください。
法人の建築士事務所登録のポイントとは?
建築士事務所登録は、設計事務所として業務を行い、報酬を得るために必要な手続きです。事前準備が必要な手続きを把握した上で、スケジュールを立て、計画的に手続きを進めましょう。
建築士事務所登録に関するポイントは下記の通りです。
- 建築士事務所申請前に、管理建築士講習などの事前の準備が必要
- 法人設立直後に申請するには、法人登記やオフィスの確保がスケジュールに影響
- 定款には「建築物の設計・工事監理」などの設計事務所に関する記載が必要
- 法人化する場合、個人事業主としての建築士事務所の廃業届の提出も必要
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