会社を経営するための基本的な知識として、売上・費用(経費)・利益について正しく理解する必要があります。初歩的な経営の知識ですが、経営者は概念を把握したうえで、自分の会社を正しくコントロールする必要があります。
この記事では、設計事務所の代表として経営に携わっている方やこれから独立を目指す方向けに経営を考えるための基本的な用語や知識を解説しています。また、スタッフの方が読んでもわかりやすい内容になっているので、設計事務所の経営状態を知りたい方やにもオススメです。
売上・費用(経費)・利益とは?
会社の経営状態を正しく理解し、意思決定するためには、売上・費用・利益の基本的な考え方を理解したううえで、コントロールする必要があります。
売上
売上とは、会社が顧客に対して商品やサービスを提供したときに対価として得る代金のことです。年度末に作成する決算書では、売上高という用語が売上の総額にあたります。
設計事務所の場合、売上の大半を建築主から支払われる設計料や監理料がしめます。設計料に加えて、企画料や調査費、コンサルティング料などの名目で報酬を得ている設計事務所もあります。
費用(経費)
費用とは、会社の生産や取引などの経済活動に伴って支払う金銭のことです。売上をあげるために必要な支出や会社を運営するために必要となる支出などが含まれます。
費用は、売上に比例して増減する変動費と、売上が発生しなくても会社を維持・運営するために発生する固定費に分類することができます。固定費の部分を経費と呼ぶ場合もあります。
設計事務所の場合、変動費の多くは設備や構造事務所への外注費がしめます。設計事務所の固定費は人件費の割合が多く、それ以外の固定費としてオフィスの賃料やPC、CADなどのソフトウェアなどの代金、HPの作成などの広告宣伝費、接待交際費などが挙げられます。
設計事務所の固定費と変動費については、3-4 固定費と変動費とは?設計事務所の経営(3) の記事をご覧ください。
利益
利益とは、収入(売上)から支出(費用)をひいたものです。売上から費用を引いて、プラスになるなら利益(黒字)、マイナスになるなら損失(赤字)と呼びます。
売上に対する利益の割合である利益率は、業界やビジネスモデルによって適切とされる数値が異なります。建築設計業界の場合、売上の8~10%程度の利益率が目安になります。
利益は、管理会計と税務会計とで算出方法や考え方が異なります。それぞれの違いを解説します。
管理会計上の利益【限界利益と利益】
管理会計は、経営者が会社の状況を正しく把握し、経営判断・会社をコントロールするためのツールです。
管理会計で注目する利益は2つです。売上から変動費を引いた限界利益と、限界利益から固定費を引いた利益を管理します。
限界利益は、売上から変動費(仕入れ費用や外注費)を引くことで、実質的に会社に残る金額を見える化できます。
設計事務所の経営において、限界利益は経営状況を改善する指標として役立つでしょう。
さらに、プロジェクト毎に限界利益を管理し、社員の稼働率を確認することでプロジェクトの利益率の改善に役立てることもできます。
限界利益の管理や運用方法については、3-5 粗利や限界利益とは?設計事務所の経営(4) をあわせてご覧ください。
財務会計・税務会計上の利益【5つの利益】
税務会計の目的は、確定申告書を作成し、納税額を確定させることです。作成が求められる決算書・損益計算書(P/L)に記載する利益は5種類あります。これを損益計算書の5つの利益と呼びます。
5つの利益は、売上総利益・営業利益・経営上利益・税引前当期純利益・当期純利益になります。下図は、売上と5つの利益との関係を図解化したものです。
設計事務所の場合、B 営業利益、C 経常利益、D 税引前当期純利益の3つの利益額は、ほぼ同額になります。経営者が5つの利益の名称を暗記する必要はありません。
A 売上総利益、B 営業利益、そして実際に法人税等を払った後に会社に残るE 当期純利益の3つの利益の違いを把握しておくだけで良いでしょう。
利益の名称 | 算出方法 | 備考 |
A 売上総利益 | 売上から売上原価を引いたもの | 粗利とも呼ばれる |
B 営業利益 | 売上総利益から販管費と一般管理費を引いたもの | |
C 経常利益 | 営業利益から営業外収益を引いたもの | |
D 税引前当期純利益 | 経常利益から特別損益を引いたもの | |
E 当期純利益 | 税引前当期純利益より、 法人税として30~35%程度が控除される | D の2/3程度 |
設計事務所の売上・費用・利益の目安は?
設計事務所の売上・費用・利益はどのように決まるのでしょうか?
設計事務所の売上を100%とした時の利益の目安は8~10%となります。費用の割合は、住宅中心の設計事務所の場合は変動費が20~25%程度、事務所ビルや工場などの法人施設の場合は変動費が25~30%程度となります。
設計事務所の利益の目安は8~10%程度ですが、成長途上の設計事務所は見込まれる利益の大半をスタッフ育成や集客・マーケティングなどへの投資に廻すことがほとんどです。
スタッフ5人までの設計事務所は、最も人件費割合が高く、経営が不安定な状態にあります。利益を投資にまわし、不安定な組織構成から早期の脱却を目指すのが良いでしょう。
経営の基本を理解し、利益がでる体質をつくろう
売上・費用・利益を元に会社の状況を把握することで、設計事務所の経営を正しくコントロールできます。この記事のポイントは、以下の通りです。
- 会社の状況を把握するために、売上・費用・利益の状況を確認しよう
- 設計事務所の売上の大半は、設計料・監理料で占められている
- 費用は、売上に連動する変動費、必ず発生する固定費に分類できる
- 設計事務所の利益率の目安は、売上の8~10%程度
- 経営者は、自分の会社と限界利益と利益の状況を管理しよう
このサイトの 3章 設計事務所の経営入門では、設計事務所を経営するための基礎的な知識や、経営判断役立つ管理会計について学ぶことができます。
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