3-3 運転資金・資金繰りとは?設計事務所の経営(2)

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会社を安定して経営・運営するためには、適切な資金繰りや運転資金の流れを把握するといったことが大切です。資金繰り表などで未来のお金の流れを予測し、現金不足で不払いや倒産状態に陥らないよう対処する必要があります。

この記事では、運転資金や資金繰りに関する用語解説、概要、キャッシュフローとの違い、具体的な資金繰りの方法や運転資金の確保の目安などを紹介しています。

設計事務所の代表やスタッフ、これから独立を目指す方向けに解説していますが、内容としては中小企業の経営者全般に参考となる基本的な経営用語や考え方をまとめています。

会社経営をコントロールするためのツールである管理会計については、3-1 管理会計とは?経営者の会計、税務会計との違い をあわせてご覧ください。

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資金繰りとは?

資金繰りとは、会社のお金の流れを管理し、資金がなくならないように調整することです。資金とは、現金や銀行口座の普通預金残高などの会社としてすぐに支払いに利用できるお金を指します。

資金繰りが必要となるのは、会社の売上・利益と、実際に手元にある資金の間に差額が生まれるためです。例えば、売上の入金は請求書を発行してから1ヵ月程度を要するため、毎月の給与などの費用の支払いが先行することになり、資金不足に陥りがちです。

見込まれる売上が入金されるまでの期間、融資を受けたり、資金の回収を速めるなど、様々な施策を打つ必要があります。こうした一連の行動・施策を資金繰りと呼びます。

資金繰りとキャッシュフローの違いとは?

資金繰りと同種の会計用語として、キャッシュフローという言葉があります。

会計用語としてのキャッシュフローは、「過去のお金の流れ」というニュアンスを持っています。決算書・財務諸表に含まれるキャッシュフロー計算書は、過去のお金の流れを把握するためのもので、投資家などの判断に活用されています。

対して、経営者は資金繰り表を用いて、会社の未来のお金の流れを把握します。融資を受けたり、営業活動のペースを早めるなどして、会社の資金不足を未然に防ぐための行動につなげます。

資金繰り表については、4-1 設計事務所の赤字や倒産を防ぐには?売上と経費を損益試算表で管理する をご覧ください。

運転資金とは?

運転資金とは、会社が事業を続けるために必要なお金のことです。会社の運転資金は、一般的には固定費の何ヶ月分かで決めることが多いです。

運転資金の目安は、固定費の3~6ヶ月分になりますが、必要な運転資金の金額は業界やビジネスモデルによって異なります。

固定費や変動費については、3-4 固定費と変動費とは?設計事務所の経営(3)の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

設計事務所に必要な運転資金の目安とは?

設計事務所の運転資金は固定費の6ヶ月分が目安になります。プロジェクトの規模が大きく、労働分配率などが高いほど必要な運転資金の金額は増える傾向にあります。

設計事務所経営に資金繰りが必要な理由とは?

設計事務所の資金繰りについて、図解を交えて紹介します。

一般的に、建築プロジェクトでは、基本設計や実施設計などの各段階の終了毎に請求書を発行します。請求書を発行してから入金までは1ヵ月程度のタイムラグが発生しています。対して、事務所の家賃やスタッフの人件費は入金前も毎月発生します。

図では、売り上げ1000万円に対し人件費比率が600万円としているプロジェクトを例に資金繰りをシミュレーションしたものです。プロジェクトがスタートしてから半年間は、売上から人件費を引いた金額が赤字になっているのがわかります。

この図では、シンプルに人件費だけを費用として計上していますが、実際の会社運営では事務所の家賃などの固定費が発生するため、これよりもシビアな資金繰りが必要とされます。

建築プロジェクトのスケジュールと資金繰り
建築プロジェクトのスケジュールと資金繰り

設計事務所の資金繰りを改善するための5つのポイント

設計事務所の資金繰りを改善するためには、どのような施策があるのでしょうか?効果が見込める施策を5つ紹介します。

1,銀行から融資を受ける

業界関係なく、最も一般的な資金繰り策としては、銀行や信用金庫などの金融機関からの融資が挙げられます。運転資金を名目に融資を受ける場合、借入金額の目安は月次の売上高の2~3ヶ月分程度になります。

中小企業の場合、創業時は創業支援などの名目で借入の条件がよく、利子補給(借入による金利を補填してくれること)などの優遇を受ける事もできます。実質無利子や、1%程度の低金利で借りることができるので積極的に活用していきましょう。

2,契約書で支払い条件を見直す

半年を超えるような長期的なプロジェクトでは、分割払いとするのが一般的です。大手企業のように依頼主の力が強いと支払い条件が悪くなりがちですが、金額の変更に比べて支払いサイクルについては交渉の余地があります。

契約直前での分割払いの交渉は、契約締結が遅れるリスクがあるため、あらかじめ見積書や契約書案に支払い条件を明記したり、ホームページや営業資料に分割払いが必須であることを記載しておくとよいでしょう。

また、設計事務所の資金繰りに影響を及ぼす要因として、プロジェクトの延期や中断が挙げられます。契約書にプロジェクトの延期・中断が発生した場合の清算方法を明記し、リスクヘッジしておきましょう。

3,設計・監理業務だけでなく、小口の売上をつくる

設計業務は期間も長く、大型プロジェクトは安定した売上額の確保が見込めます。しかし、プロジェクト期間の遅延などによる入金のタイミングの遅れや、プロジェクト完了後の急激な売上の変動が資金繰りを悪化させる傾向にあります。

そこで、企画や調査業務、スポット相談、月額定額業務などの手軽に発注しやすい業務を組み合わせて、売上を分散させるとよいでしょう。

小口の業務は、発注までの期間が短く、業務負荷が少ない形で売上を増やす効果が見込めます。業務の中で少額のサービスとして提供できるものがないか、棚卸ししてみましょう。

4,マーケティングに投資し、受注の波を安定化する

代表の営業や紹介ベースで仕事を受注していたり、特定の会社に依存している設計事務所では、景気の変動や発注元の会社の業績の影響を受けがちです。

とはいえ、創業期は特定の会社に売上を依存することは仕方のないことです。創業初期の仕事で得た利益をマーケティングに投資し、受注をしくみ化できるように変えていきましょう。

マーケティングを通じて、複数の経路から受注する流れをつくることができます。複数の受注ルートを作り、特定の会社に依存する不安定な経営状態から脱却しましょう。

5,法人クレジットカードを作成する

法人クレジットカードを作成し、会社経費の支払いに利用することで、支払いを約1ヵ月程度ずらすことができます。

また、会計ソフトと連動させることにより、経費精算や仕分けの労力を減らす効果も得られますので、手元資金に余裕がでてきたら積極的に活用しましょう。

法人化を決めたら、資金繰り表の作成をはじめよう

設計事務所の場合、まずは個人事業主として独立される方も多くなっています。

個人事業主の場合、決算書上は代表の報酬も年度末に確定する形になるので利益の調整がしやすくなります。資金繰りの必要性を感じる機会は、あまりないかもしれません。

法人化すると、役員報酬やスタッフの人件費が毎月固定で発生し、支出が先行することになります。お金の流れが複雑になると、多くの経営者は漠然とした不安に襲われるようになります。

設計事務所の場合、資金繰り表といっても、月末の現金と銀行口座の残高を管理するような形でも十分です。資金繰り表の作成は最初は面倒に感じられるかもしれませんが、経営者である自分の不安を軽減する効果も得られます。

資金繰り表の具体的な活用方法については、4-2 設計事務所の損益試算表の作成方法とは?エクセル形式のテンプレートと入力方法 をご確認ください。

資金繰り・運転資金を理解し、お金の流れをコントロールしよう

会社のお金の流れを管理することで将来の経営リスクの発生を未然に防ぐことができます。設計事務所の資金繰りや運転資金をコントロールする際のポイントは、下記の通りです。

  • 資金繰りは、会社の未来の流れを把握し、資金確保に動く活動を指す
  • 設計事務所の運転資金の目安は、固定費の6ヶ月程度
  • もしもの時に備えて、資金繰りを改善する施策を把握しておこう
  • 法人化を意識したら、資金繰り表の作成をはじめよう

このサイトの 3章 設計事務所の経営入門では、設計事務所を経営するための基礎的な知識や、経営判断役立つ管理会計について学ぶことができます。
設計事務所経営ナビでは、設計事務所の経営や会社運営に役立つ情報を提供しています。ぜひ、関連記事もあわせてご覧ください。

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