1-3 管理建築士の責任は?建築士法の法的責任・リスク・罰則・処分事例や専任違反を紹介

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設計事務所の運営に必要な管理建築士は、建築士法上の法的責任も重く、罰則をはじめとした処分規定が存在します。

設計事務所の代表として管理建築士になる場合はもちろん、転職や異動などで会社員として管理建築士となる場合でも、事故やトラブルが起きた場合に会社への処分・罰則とは別に、管理建築士を対象とした処分罰則が発生する可能性があります。

この記事では、管理建築士の建築士法上の役割やリスク、これまで公開されている管理建築士の罰則の内容や処分事例(名義貸し・専任義務違反・管理不履行 他)について紹介しています。

管理建築士になるために必要な実務経験などは、1-1 管理建築士制度とは?必要な実務経験などの受講資格を確認をご覧ください。

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管理建築士の役割・責任とは?

管理建築士は、建築士法により定められた建築士事務所の技術的な統括する建築士とされています。

建築士法の第24条によれば、管理建築士は、

  • 設計等の業務量や必要な期間の設定
  • 業務に参画させる所属建築士の選定
  • 再委託などの他の建築士事務所との役割分担の設定

など、設計事務所の本業である設計や工事監理などの業務全般の統括を求められています。

建築士法第24条3項
管理建築士は、その建築士事務所の業務に係る次に掲げる技術的事項を総括するものとする。
一 受託可能な業務の量及び難易並びに業務の内容に応じて必要となる期間の設定
二 受託しようとする業務を担当させる建築士その他の技術者の選定及び配置
三 他の建築士事務所との提携及び提携先に行わせる業務の範囲の案の作成
四 建築士事務所に属する建築士その他の技術者の監督及びその業務遂行の適正の確保

また、同4項には、建築士事務所の開設者に対して、必要な意見を述べることを求めています。

建築士法第24条4項
管理建築士は、その者と建築士事務所の開設者とが異なる場合においては、建築士事務所の開設者に対し、前項各号に掲げる技術的事項に関し、その建築士事務所の業務が円滑かつ適切に行われるよう必要な意見を述べるものとする。

例えば、転職で入社した会社で管理建築士を任されたり、異動や昇進などで管理建築士になる状況を想像してみてください。

こうしたケースでは、経営者である建築士事務所の開設者に対して、雇用者である管理建築士が立場を超えて意見を述べることになります。会社の方針と反する場合でも社員の立場から意見を述べる必要があり、非常に難しい立場での対応が求められます。

管理建築士の罰則や処分内容は?

管理建築士が建築士法に違反した場合、具体的にどのような処分や罰則を受けるのでしょうか?

国土交通省が出している一級建築士の懲戒処分の基準に処分内容や該当条文がまとめられています。

管理建築士への罰則は、この一級建築士の罰則規定のなかに含まれています。

一級建築士の処分ランクと処分内容

処分等のランク処分の内容
1文書注意
2戒告
3業務停止1月未満
4~15業務停止1ヶ月~12ヶ月
16以上免許取消
出典:国土交通省『一級建築士の懲戒処分の基準』
※過去に処分を受けている場合は、ランクが1~3ランク、過去に処分を受けた内容(懲戒事由)と同一の場合は、2~4ランクが加算され、処分が重くなります。

管理建築士に関連する処分ランク・該当条文

管理建築士に関連する処分事例や処分例は以下の通りです。名義貸しのなかで管理建築士に該当するものや、管理建築士の不設置管理建築士の専任義務違反、管理建築士が事務所や所属建築士を管理していないことによる管理建築士事務所管理不履行などが、それにあたります。

懲戒事由 概要 処分の
ランク
該当条文
名義貸し 建築士が、業務を行う意思がないにもかかわらず、自己の建築士としての名義を、建築確認申請書等における申請代理者、設計者、工事監理者等として記載することや、建築士事務所の開設者や管理建築士として使用することを許した場合 6 建築士法21条の2、24条1項 他
管理建築士
不設置
建築士たる建築士事務所の開設者が専任の管理建築士をおかなかった場合 4 建築士法24条1項
管理建築士
専任義務違反
管理建築士が専任義務に違反した場合 4 建築士法24条1項
管理建築士事務所管理不履行 専任の管理建築士が、事務所管理を行わなかったような場合 6 建築士法24条2項

管理建築士の処罰事例(名義貸し・専任義務違反・管理不履行 他)

具体的にどのようなケースで実際の処分が行われるのでしょうか。具体的な処分事例のなかから管理建築士に対する処分に該当するものを抜粋して紹介します。

ここで紹介している処分内容は、あくまで建築士法上の処分になります。実際には、民事などの損害賠償請求などが別途発生する可能性があります。

例えば、事務所の業務停止などによりプロジェクトが止まってしまったような場合では、建築主から工事遅延に対する損害賠償を請求されることも考えられます。

懲戒事由 処分にいたる理由 処分内容
名義貸し 建築士事務所の業務を行う意思がないにもかかわらず、建築士としての名義を、同事務所の管理建築士として使用することを許した 平成24年千葉県
業務停止6ヶ月
専任義務違反
建築士事務所の管理建築士でありながら、宅地建物取引業者の専任取引主任者として従事し、管理建築士として建築士事務所に専任していなかった。また、事務所の開設者でありながら、事務所の所在地変更の届出を怠り、帳簿及び実績等の書籍を作成せず、事務所の標識を掲示していなかった。更に、建築主から設計等の依頼を受けた際、必要な書類を交付しなかった。 平成19年福島県
業務停止6ヶ月
管理建築士不設置 建築士事務所を管理する専任の建築士を置いていなかった 平成28年東京都建築士事務所の登録取消し
工事監理不履行・不十分
管理建築士事務所管理不履行
管理建築士として、同事務所の業務の技術的事項を総括する立場にあったにも かかわらず、工事監理が十分行われない事態が生じるなど、同事務所の管理を十分行わなかったことにより、界壁不備等の違反建築物を多数現出させるに至った。 令和元年中央建築士審査会
免許取消

名義貸し、専任義務違反の事例は、日本建築士会連合会編著『建築士業務の紛争・保険・処分事例』p135~136より引用

管理建築士の専任規定とは?

管理建築士特有のルールである、専任規定について紹介します。管理建築士は、1つの設計事務所の業務に専念する必要があります。

専任規定により、管理建築士は副業・複業をはじめとした多様な働き方が制約される可能性があるので注意が必要です。

建築士法第24条1項
建築士事務所の開設者は、一級建築士事務所、二級建築士事務所又は木造建築士事務所ごとに、それぞれ当該一級建築士事務所、二級建築士事務所又は木造建築士事務所を管理する専任の一級建築士、二級建築士又は木造建築士を置かなければならない。
※太字は、設計事務所経営ナビによる

具体的な専任の条件については、管理建築士の専任に関する証明書類などに記載されています。一例として、長崎県の建築士事務所協会の管理建築士の専任に関する証明書類を紹介します。

管理建築士の専任に関する証明書類|長崎県建築士事務所協会
建築士法第24条により、建築士事務所(一級、二級、木造)はそれぞれ専任の建築士(一級、二級、木造)が管理しなければなりません。専任とは原則として、事務所に常勤し、休日等を除いて、通常の勤務時間はその事務所に勤務していることです。次の事項に該当する場合は、管理建築士とは認められません。
住所と事務所所在地が著しく遠距離で通勤が不可能なもの。
②他の法令(建設業法、宅地建物取引業法等)により、専任になっているもの。(同一所在地で同一開設者の事務所では兼任できる場合もあります。)
③建設業法の技術者(主任、監理)として、特定の工事現場に常駐しているもの。
④他の業務等(他の会社への勤務、他の営業等)で専任に近い状態にあると認められるもの
※太字は、設計事務所経営ナビによる

現場の常勤という文言や、事務所所在地との距離や現場等の常駐など、かなり行動の自由を制限するものとなっています。

管理建築士の専任規定の注意ポイントや問題点とは?

管理建築士の専任規定は、建築士の行動への制約が強く、近年の多様な働き方などの流れとの整合性もつきにくい現状があります。管理建築士の専任規定に関する注意ポイントや問題点についてまとめました。

管理建築士の退職インパクトが非常に大きいこと

管理建築士が不在となった場合、建築士法上の規定では建築士事務所の廃業を求めています。管理建築士の不在に対する救済措置が存在しない状況にあります。

突然、管理建築士が退職してしまった場合、建築士事務所の廃業リスクがつきまといます。管理建築士が雇用されているスタッフの場合、民法上では契約内容にかかわらず最短2週間で退職することができてしまいます。

ビジネスアワーでの副業が現実的に難しいこと

管理建築士は、ビジネスアワー内での複業・副業が現実的に許されていない状況にあります。

例えば、建築士事務所の代表は、大学や各種学校の講師や資格学校の講師などの副業的な業務を行っている状況もあります。ビジネスアワーと重なっている場合は、専任違反とも捉えられるでしょう。

管理建築士の働き方は制約条件も多く、十分に注意を払う必要があります。

労働法との整合性が難しいこと

管理建築士は、建築士法による規定であるため、労働法などの他の法律と相反するような内容になっているものがあります。

例えば、産前産後休暇による管理建築士の休業が考えられます。労働基準法65条の2項には、労働者は産後8週間以内の就業禁止が規定されています。

労働基準法第65条(産前産後)
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

また、リモートワークなどの多様な働き方との整合性なども、常勤を求める管理建築士の専任の要件とも折り合いがつきにくいです。

***

これらの専任規定について、実際に東京都や神奈川県の建築士担当課にヒアリングしたところ、かなり見解が異なりました。産休・育休やリモートワークについては明確な指針がでておらず、都道府県による違いだけでなく、担当者によっても見解が異なるようでした。

一方の自治体では、実体的に管理建築士が求められている業務・確認がリモートでも実行できるような運用方針が定められていればよいのではないかと柔軟な見解もいただきました。

もう一方の自治体では、リモートワークはコロナに関する限定的なものとして認められるが、育休・産休については「管理建築士が休業状態にあるので代員が必要である」という見解でした。

実際の運用にあたっては、都道府県の建築士事務所協会や都道府県庁の建築士関連の部署に相談しておき、記録を残しておくことをお勧めします。

管理建築士の責任の重大さを理解し、就任には配慮しよう

管理建築士は、設計事務所の経営・運営に必要不可欠な重要な存在です。きちんと管理建築士の役割やリスクを理解したうえで、適切な知識を身につけて管理建築士の責任を果たしましょう。

管理建築士の責任や役割に関するポイントは下記の通りです。

  • 管理建築士の責任やリスクの重さを理解し、安易な就任を避けよう
  • 転職や異動がきっかけで管理建築士に就任する場合、待遇面の確認をしよう
  • 会社の方針と反する場合でも、管理建築士として意見を述べる責任を負っている
  • 管理建築士は、所属建築士に対しても責任を負い、処罰対象になる
  • 管理建築士の専任要件は、複業や働き方などの自由を制限しうる
  • 管理建築士の専任要件は、建築士事務所協会や都道府県の建築士担当課に相談しよう

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